目下、ヨーロッパ各国で熱い議論が交わされているディーゼルエンジン車。政府や自動車メーカーに「騙された」と感じているのはディーゼル車オーナーたちだけではない。知らぬ間に環境悪化が進んでいた事実を前に怒り狂う市民たち。ここにディーゼルについての興味深い事実をまとめてみた。
そもそもディーゼルとは?

ディーゼルエンジンという名は、発明家のドイツ人機械技術者ルドルフ・クリスチアン・カール・ディーゼル(Rudolf Christian Karl Diesel / 1858−1913)に由来している。バイエルンからパリに移住していたドイツ人の両親のもとに生まれ、幼少期をフランスで過ごしたディーゼル。
1870年に起きた普仏戦争のため、両親とロンドンに移り住んだが、12歳の時からバイエルン州アウクスブルク(Augsburg)に住む叔父と叔母のもとで暮らした。
1880年、ディーゼルはミュンヘン工科大学を首席で卒業。その後、パリの製氷機会社でエンジニアとして研究開発に取り組み、次々と新技術を生み出し、数々の特許を取得。

冷凍分野以外にも、熱効率や蒸気機関についての研究を始めたディーゼルは、1893年、「既知の蒸気機関と内燃機関を置換する合理的熱機関の理論と構築」と題した、ディーゼルエンジン発明の基盤となる論文を発表し、特許を得た。
ディーゼル燃料とは?

ディーゼルエンジンの燃料として最も一般的なのが軽油。通常のガソリンに比べて安価で、常温下では発火しにくいため、より安全に保管できることなどが特徴だ。

軽油以外の油であっても、発火点が225度の液体燃料であれば、ディーゼルエンジンに適用できる。1900年にディーゼルがパリ万博で行ったデモンストレーションではピーナッツオイルを燃料として使用した。
ディーゼルが世界的に広まった理由

ガソリンエンジンは、圧縮した混合気(霧状のガソリンと空気の混ざったもの)に点火して燃焼させるのに対し、ディーゼルエンジンはエンジン内の空気を圧縮して高温にして、そこに液体燃料を噴射して自然燃焼させる仕組み。つまり、ディーゼルエンジンは外燃・内燃含め熱機関として最も熱効率(エンジン効率)の優れたエンジンなのだ。
1910年頃にはディーゼルエンジンは潜水艦や船舶で、その後も機関車やトラック、重機や発電プラントなど幅広い分野で使われるようになっていった。しかし、自動車に使用され始めたのは1970年代に入ってからのことだ。
乗用車用エンジンとして不向きだったディーゼルエンジン

乗用車に使用するにはディーゼルエンジンには難点があった。1)騒音が大きく(高圧縮のため点火の際に槌音が響く)、2)排気ガスにも問題があり(燃料が安く、有害な微粒子物質が排出される)、3)冬季はエンジンがかかりにくく、4)安定した走りには向いているがトルクが小さい、など不利な特徴を抱えていたのだ。
自動車メーカーは熱効率のよいディーゼルエンジンの弱点克服に乗り出す。1976年、フォルクスワーゲン社がディーゼルエンジン搭載車のテスト走行を初めて実施。他メーカーも追って、ディーゼルエンジン車を次々と開発していった。こうして遅れを取っていた乗用車へのディーゼルエンジン採用が一気に浸透していった。
ディーゼルと日本人の意外な関係

第一次世界大戦勃発の前年の1913年9月、ロンドンでの会議に出席するため船に乗り込んでいたルドルフ・ディーゼルの姿が忽然と消えた。10日後には彼の遺体がノルウェー沖で発見。
出発前、妻に多額の現金が入った鞄を渡していたことなどから自殺とする説もあるが、軍関係者や商売敵による殺害とする陰謀説もある。真相は未だに明らかになっていない。
不審な死を遂げたルドルフ・ディーゼル。その後、彼の死を弔うための墓も作られることはなかった。時は40年を経た1953年。ディーゼルが12歳のときから暮らしていたアウクスブルク( Augsburg)を世界で初めて小型ディーゼルエンジンを開発したヤンマー創業者の山岡孫吉が訪問した。
ディーゼルエンジンを発明したルドルフ・ディーゼルを表敬訪問するためだった。ところが、彼の霊を慰めるための墓も記念碑もないことを知る。自分が作ろうではないか、山岡は決心した。

1957年、ルドルフ・ディーゼル生誕100年およびディーゼルエンジン開発60年と日独の絆を記念して、ヤンマー創業者山岡孫吉によって、アウクスブルクのビッテルバッハ公園( Wittelsbacher Park)内に石碑が寄贈された。
ディーゼルエンジン車の行方は?

EU圏内の新車販売台数のうち約50%を占めていたディーゼルエンジン車。しかし2015年に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス不正問題以降、ディーゼル離れが進んでいる。
ドイツ政府やドイツの自動車業界は燃費効率の良さからディーゼルエンジンを推進してきたが、実は謳われているほど「クリーン」ではないことも知っていた。ドイツ国内に登録されている1500万台のディーゼルエンジン車のオーナーらが「騙された」と感じている所以だ。

さらにフランス、英国が2040年にはディーゼル車、ガソリン車の販売を禁止するとの方針を発表したことは世界に衝撃を与えた。EU各地ではディーゼル規制も始まるなど、ディーゼルへの風当たりは強くなる一方だ。
燃費や排ガス規制の強化に伴い、技術改良だけでは追いつかず、少なくとも乗用車におけるディーゼルエンジンが終焉を迎える日もそう遠くないかもしれない。