音楽が「職人の時代」だった18世紀、ヨハン・セバスティアン・バッハの後期の膨大な傑作群は、ライプツィヒでの生活サイクルから生まれた。自らカントール(音楽監督)を務めた聖トーマス教会合唱団を活動の母体に、バッハは日曜日の礼拝で歌う教会カンタータや受難曲の大作を書き、一方で子供たちを指導し、彼らと一緒の宿舎で寝泊まりしながら亡くなるまでの27年間を過ごしたのである。
800年以上の歴史を持つ聖トーマス教会合唱団は、いわばバッハの受難曲のもっともオーセンティックな継承者といえる。興味深いことに、彼ら団員の生活サイクルもまたバッハの時代とほとんど変わらない。付属のトーマス学校で学ぶ傍ら厳しい歌のレッスンを受け、週末はトーマス教会でもう一つの名門ゲヴァントハウス管弦楽団とカンタータを共演する。ソプラノやアルトのあどけない少年たちが、年長の生徒と共に過ごす寮生活の中で成長を遂げ、やがて「バッハの合唱団」としての精神を体現してゆく。
音楽史上の最高傑作として崇められることの多いバッハのマタイ受難曲を聖トーマス教会合唱団の演奏で聴くと、バッハが神という超越的な存在を念頭に置きながらも、紛れもなく生身の人間とのコミュニケーションを通して生み出した作品なのだと実感する。ゴットホルト・シュヴァルツが指揮を務める今回の来日公演においても、「マタイ」の中に横溢する愛や他者への連帯のメッセージは、時代や宗教の垣根を越えて私たちを慰め、力づけてくれるに違いない。
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主催者名
Japan Arts
日時
2016年03月09日 18:30 - 21:30
場所
Suntory Hall (サントリーホール)〒107-8403 東京都港区赤坂1-13-1