ドイツ語のテキストを英語に直すと、単語の量は多いのに、5分の1短い文章になるとか……。ドイツ語は長い!そして、その長さに比例して、略語も豊富。今回は、「素晴らしきドイツ略語の世界 Die fabelhafte Welt der Abk.」第2弾です!


第1弾ではHARIBO、Adidas、ALDI、BMWと知名度の高い略語をご紹介しましたが、今回は少しマニアックに、DDRこと旧東ドイツで使われていた略語や、近年流行中のSNS略語などを写真をたっぷり掲載させながら見ていきたいと思います!

まずはDDR!
東ドイツの話に耳を傾けていると、この国独自の施設や部署の略語などが次々出てきて、聞き直すと、案外話している本人すらもちゃんとわかってなかったりして、めくるめく略語のラビリンスへと迷い込んでいってしまうのですが……、耳にする頻度が最も高い略語というと、これでしょうか。

●VEB VolksEigener Betrieb

出典: © Hideko Kawachi

ファウエーベー、旧東ドイツの「国営企業」のことです。
ベルリンの可愛いビールコースターに踊るVEB、「国営企業ベルリン飲料コンビナート」!
ライプツィヒには、有名な「国営企業グルメ食品・ライプツィヒ」の看板なんかがあります。旧東ドイツ地区を歩いていると、いまも時々VEBの文字が目に入ってきます。

出典: © Hideko Kawachi

ベルリンにはVEB Orange という店名のDDR雑貨の専門店があったり!

ライプツィヒで見かけたこちらは、VM。VolksEigene Möbelkombinate 国有家具コンビナート。似てるけど微妙に違いました。

出典: © Hideko Kawachi

また蚤の市で、DDRモノを探していると、時々出会うのが「EVP」の文字。Endverbraucherpreis(最終消費者価格)の略語です。パッケージの紙箱やラベルにプリントされていることも。

●MfS / Stasi >  Ministerium für Staatssicherheit

出典: © Hideko Kawachi

映画などのイメージもあって、知名度が高い(?)旧東ドイツの秘密警察、シュタージ。MfS – Ministerium für Staatssicherheit (国家保安局)となります。
この「国家保安」というドイツ語のスターツジッヒャーハイトを略しての通称がシュタージ。

局には直接所属せずにスパイとしてなんらか諜報活動に関わっている人はIM イーエム、と呼ばれます。このInoffizieller Mitarbeiter (非公式職員)の数は、壁が崩壊した1989年当時で18万9千人。東独の人口は1600万人だったので、だいたい100人に一人がイーエムだったという計算になります。そして、シュタージになんらかの形で関与していた人は10〜20人に1人というデータも。弱みや利点がありそうな人には次々声をかけていたと聞きます。

東西ドイツが再統一した後、シュタージのために働いていたという過去を暴かれて、非難を浴びたり、失脚に追い込まれた人もいました。

●Vopo > VOlksPOlizei

出典: © Hideko Kawachi

フォルクスポリツァイ、東ドイツの人民警察フォポ。
ポ、はポリツァイ。英語でいうところのポリスの略で、西ドイツでもクリポ、シュポ、ベポ、なんかがあります。クリポはKriminalpolizei クリミナルポリツァイ、刑事警察の略。シュポはSchutzpolizei はシュッツポリツァイ、保安警察ベポはBereitschaftspolizeiで、いわゆる機動隊です。

なんだかちょっと可愛らしい響きですが、実際目の前にするとゴツくて荒々しくて、全然可愛くありません(笑)。ドイツの警察官に、日本の「おまわりさん」のような親しみやすさは全然ないですね……。

出典: © Hideko Kawachi

そのほかにも、NVA・・・Nationale VolksArmee エヌファウアー(人民軍)だの、

出典: © Hideko Kawachi

FDJ・・・Freie Deutsche Jugend エフデーヨット(自由ドイツ青年団)なども、よく知られています。

●WBS 70 > WohnBauSerie 70

出典: © Hideko Kawachi

ちょっと専門的な東独独自の略語がこちら。ヴェーベーエス・ジプツィッヒ。
同カテゴリーの略語には、P2などがありますが、旧東ドイツで70年代から続々と建てられた「プラッテンバウ」、いわゆるプレハブタイプの建築のこと。70年代に建てられ始めたことからWBS70というわけです。

1,2m角のプラッテ(パネル)をサクサクと現地で組み合わせて、1戸作るのに18時間という驚異の速さで完成。1973年に建て始められたWBS70は、東独国内に64万4900戸が造られました。
初めて建てられたときは、当時、まだ家の中になかったトイレやお風呂場があって、セントラルヒーティングも完備されたモダンな家として、大人気だったんだそう。

●BVB > VEB Kombinat Berliner VerkehrsBetriebe

出典: © Hideko Kawachi

●BVG > Berliner VerkehrsBetriebe

出典: © Hideko Kawachi

実はこれ、どちらも「ベルリン交通局」の略語なんですが、BVBが東ベルリン(国営企業の略語VEBが頭に入っている)、BVGが西ベルリン。

実はどちらも同じ言葉なのに、略語が違うという興味深い例です。同じだと混乱が起きるからでしょうけれども。

BVB、というと、今はブンデスリーガのサッカーチーム「ボルシア・ドルトムント」のイメージが強いですね(笑)。こちらはBallspielVerein Borussia Dortmund、バルシュピールフェアアイン・ボルシア・ドルトムント、です!

●UNVEU> Und Niemals Vergessen: “Eisern Union!“

出典: © Hideko Kawachi

BVB、ボルシアドルトムントでサッカーの話が出たところで、旧東ベルリンのチーム、1.FCウニオン・ベルリンのご紹介を!

ウニオンのファンならば、必ず知っているこの略語、UNVEU!なんと一つの文章を縮めた略語なのです。公式雑誌もこの名前。

試合が始まる前に、場内アナウンスでいろんな語りがあり、締めにこの言葉が。「そして……決して忘れない…… „鉄のウニオンを“!」Und Niemals Vergessen: “Eisern Union!“

と盛り上がって、ニナ・ハーゲン歌うスタジアムソングが入ります!!

同じくベルリンでも西ベルリンのチーム、ヘルタ・ベルリン。壁があった頃も親善試合などがあったようですね。こちらはHAHOHE!というかけ声で、始まりますが、その由来はチームの人もよく知らないそうです。

さて、ここからは、いまがなう(死語)のSNSの略語たち。

●#ZSMMNBRCH> Zusammenbruch

出典: © Hideko Kawachi

今年6月28日のスポーツ1面と聞いたら、ピンとくる方もいるかもしれません。「Zusammenbruch」挫折……。W杯で、ドイツがまさかのグループリーグ敗退した時の記事です。

学校では教えてくれないドイツ語 Vol. 7」の若者言葉のところでも書いたのですが、ドイツ語の単語はなにぶん長いので、ツィッターやwhatsappなどで、素早く打ちたい時にとにかくもどかしい。しかも文字数が多くて場所をとる。というわけで、ハッシュタグなどは母音を抜いて短く略すことが多いのです。
hdm(ハーディーエム)> Halt dein Maul!  黙れ!
vlt. > vielleicht たぶん
hdgdl > hab dich ganz doll lieb 大好きだよ〜 などなど。。

出典: © Hideko Kawachi

上の写真は、駅のコンビニの広告ですが、Hunger?(お腹減った?)Durst?(喉乾いた?)の母音がそれぞれ抜けてます。

出典: © Hideko Kawachi

上のスーパーのカップにプリントされていた、これに至ってはんん?と二度見する始末。全然略する意味がないあたりが…。Schlecht geschlafen?(よく寝られなかった?) Schlapp?(ぐったり?)の略です。

SNSの略語は流行り廃りが早いようですが、
LIDUMINO  Liebst Du mich noch?(まだ、私のこと好き?)とか、もう何がなんだか、、、、

●FCK>

出典: © Hideko Kawachi

同様の母音をトル略語で、よく見られるのがFCK。たいして短くなっていませんが、これはエフワードを柔らかく(?)するためなんでしょうか。

同じように、書いてはいけない言葉を隠すために略語にしているのが、ネオナチのTシャツなどでちらほら見かけるこちら、HKN KRZ。ハーケンクロイツの略です。
ナチスのシンボルマークである鉤十字、ハーケンクロイツはドイツでは禁止されていますが、文字としては許されているので、その辺りの隙をついたやり方。

出典: © Tagesschau/Facebook

ネオナチに反対する人たちが着ているTシャツ、FCK NZS!(ファック、ナチス!)と全く同じデザインだったりするからたちが悪い。このデザインは、ヒップホップのグループ、Run-D.M.C.(ラン・ディーエムシー)のロゴが元ネタなのでしょうか、そっくりです。

前回あげた政党の略語の中では、PEGIDAもPatriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlande 「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」の略。
最近よく耳にする略語だと、BAMF。ニュースなどでバンフバンフと言っていて??だったのですが、新聞で文字を読んでやっと納得。Bundesamt für Migration und Flüchtlinge 連邦移民・難民庁のことです。

ああ、また略語の迷路にはまってしまいそうです。OMG、bb…。

ではまた、この辺で!

執筆者:河内秀子
東京都出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』、『Young Germany』『Think the Earth』『Newsweek for WOMAN 』などでもベルリンやドイツの情報を日本へ向けて発信させていただいています。
Twitterで『#一日一独』ドイツの風景をほぼ毎日アップしています。いまの興味は『#何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題』。美味しくてフォークを刺してあるケーキを探し歩く毎日です。HPもご覧ください。