旧東ドイツの誇りだった、ラインスベルク原子力発電所。停止から28年目の今も廃炉作業は続いています。

2018年。東日本大震災から、そして福島第一原発事故から、もう7年が経ちました。“もう”7年、“まだ”7年。

今でも、2011年の3月11日、パソコンのモニターの向こうから流れてくる映像を固唾を飲んで見続けていたことを、外に出るとベルリンの日常が遠くにように見えたことを、鮮明に思い出します。

メルケル首相は、福島の事故からわずか4日後の3月15日に、1980年以前に作られた7基と1984年に作られたクリュンメル原発の一時停止を発表。

5月には前述の8基の廃炉と稼働中の9基の2022年までの順次停止を決め、事実上の「脱原発」を決定しました。これら17基は全て旧西ドイツのもの。

実は、1990年に停止され、廃炉作業が進んでいる2つの原子力発電所が旧東ドイツ地区にあるのです。

出典: © 河内秀子

そのひとつ、ラインスベルク原子力発電所(Kernkraftwerk Rheinsberg)は、いまも見学が可能。旧東ドイツの技術の粋を集め、西ドイツに先駆けて完成したドイツ初の原発と、その廃炉作業を見にラインスベルクを訪れました。

1966年、5月9日に完成したラインスベルク原子力発電所。

DDR時代の10マルク札; 出典: Wikipedia CC0

DDRの10マルク札には、この原発で働く女性の姿が描かれています。旧東ドイツの人たちがいかにこの原発を誇りに思っていたかが、よく伝わってきます。しかし、その出力はわずか7万kW(キロワット)。1971年に運転を開始した福島第一原発の1号機の出力が46万kWと言いますから、その規模の小ささがわかります。

出典: © 河内秀子

1988年の時点で、旧東ドイツのエネルギー供給の8割以上が褐炭で(旧西ドイツは49%)、原子力発電からのエネルギーは1割以下でした(旧西ドイツは34%)。

ラインスベルク原発の耐久年数は20年でしたが、電力不足に陥っていた東ドイツ政府は1986年に5年間の延長を決めていた……のですが、ベルリンの壁が崩壊。

1990年、ドイツ連邦共和国の原子力法の安全基準を満たすためには巨額の再整備が必要との結論が出され、廃炉が決まりました。

ガイドをしてくれたヨルグ・メラーさんはラインスベルクの出身。1984年からこの原子力発電所で働いています。

「ラインスベルクに暮らす人の1割以上、約600人がこの原発で働いていたんだよ。ベルリンの壁が崩壊して廃炉が決まり、仕事がなくなる……と思ったら逆だったよ。廃炉が決まった1990年からが、本当の仕事のスタートだったんだ。」

出典: © 河内秀子

通常は運営する電力会社が自己負担すべき、解体廃炉処分などの作業(注)。しかし、ラインスベルクの場合は母体の会社どころか国自体がなくなり、解体作業は手探り状態。技術者や学者たちを募り、ひとつひとつ問題を解決するための機械を開発のための製造会社を探すところから始めなければならなかったそうです。

感心するのは、彼らがここで培った解体・廃炉のノウハウを生かして起業し、再生したということです。

ラインスベルクは、2025年までに廃炉作業を終了させる予定。現在までのコストは約5億6千万ユーロ、放射性廃棄物は6万3000トンにものぼっています。

出典: © 河内秀子

そんな大変な廃炉作業を目の当たりにしているメラーさん、「やっぱりもう原発は要らないって思いますか?」という私からの質問への答えは・・・

「メルケル首相は脱原発に舵を切り、いまは二酸化炭素排出量が多いからって褐炭の火力発電も槍玉にあがってるよね。でも皆、コンセントをつないで電気が流れてこなければ嫌だと言う。まずは使う電力を減らして欲しいね。」

1990年からゆるやかに増え続けているドイツの電力消費量。日本でも、戦後、福島原発事故が起きるまでは一貫して伸び続けていました。

まずは2022年までに、消費量自体を減らす努力をすること。ラインスベルク原子力発電所を見学し、少しでも節電を心がけようと、強く思ったのでした。

(注:ドイツでは原発を所有する電力会社は、停止から解体廃炉処分などの作業費用は全て自己負担でしたが、脱原発後、その費用の負担が不明確に。2017年、国が作った基金に電力会社が約235億5600万ユーロを払い、国が放射性廃棄物の中間・最終貯蔵処理に関しては責任を負うことになりました。これにより、途中で会社が倒産しても脱原発が進められることになります。いつまでかかるかわからない作業だからこその決定ですが、原発で儲けた電力会社が最後まで責任を取らず、最終的には国民に負担がかかるのではないかという批判の声も大きいです。)

☆ラインスベルク原子力発電所の見学は暦週(Kalenderwoche)が偶数の週の水曜日、7・8月は毎週、水曜日の13時から〜
要予約  連絡先は以下の通り
Tel: 033931 57-560
Fax: 033931 2367
joerg.moeller(at)ewn-gmbh.de

執筆者:河内秀子
東京都出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』『ミセス』、『Young Germany』『Think the Earth』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。
Twitterで『#一日一独』ドイツの風景をほぼ毎日アップしています。いまの興味は『#何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題』。美味しくてフォークを刺してあるケーキを探し歩く毎日です。HPもご覧ください。