毎年11月末になると発表される「Jugendwort des Jahres」、ドイツ若者言葉・オブ・ザ・イヤー!
辞書で有名なランゲンシャイト社(Langenscheidt)が指揮をとり、2008年にスタートしたこの試み。言葉にこそ、変わりゆく現代社会がリアルに反映されるもの。今回は「ドイツの若者言葉と流行語」にスポットを当ててみたいと思います!
● I bims(イ・ビムス)>わたしよ、僕だよ
2017年の若者言葉、第一位に輝いたこの言葉。文法的に正しいドイツ語でいうところの「Ich bin’s (オレオレ〜! 僕・私だよ〜)」。
ドイツでもユーザー数最多を誇るWhatsAppなど、SNSで使われる流行りの若者言葉。Hallo Ich bin’s は、Halo I bims となるよう。
SNSやチャットなどでは、文法を気にして書くと堅苦しいのであえてハズす、という技は日本でもあると思いますが、この「ハズし」、非母国語話者にとっては高度な技なんですよね。だって外国人がやると、ただの文法間違いにも映ってしまいますから…。
●“vong“-Sprache
不定冠詞 ein/eine に数字の1を当てたり、nとmを入れ替えたり。
こういうハズしを、“vong“-Sprache (フォンシュプラッヘ)と言うそうですが、2015年からスタートしたFacebookサイト「Nachdenkliche Sprüche mit Bilder」が火付け役になったと言われています。
タイプミス?あれっ?と考え込ませる文章を画像と一緒に見せるサイト。例えば:
Weinachten ist einfach supper vong Geschenke her
さあ、「正しいドイツ語」は?
ドイツ語学習者には、間違い探しの勉強になる……かもしれません。
“vong“-Spracheも登場する、誇張した若者言葉を喋るこんなビデオもあります。「POZILEI VONG HEUTE」
●hdm(ハーディーエム)> 黙れ!
これは Halt dein Maul! (黙れ!うるせえ!)の略語。ドイツ人が一番よく使うメッセージアプリWhatsAppには、LINEのように手軽に感情やメッセージを表せるスタンプがないため、このような略語が生まれるのでしょう。
ドイツ語はなにぶん長いので次々と略語が登場します。他にも→
vlt. = vielleicht >たぶん
とか
hdgdl = hab dich ganz doll lieb >大好きだよ〜
だの
GlG と来た時には、何の略??と頭を悩ませ検索までしましたが、何のことはない、Ganz liebe Grüße という手紙の結びの挨拶でした。
エスカレートするもので、
Yolo = You only live once >人生は一度きりだよ!楽しまないとー などの英語由来の言葉も。外国人にとっては、これらの略語、少しハードルが高いですよね。理解できないか、理解できるまでに時間がかかるかの、どちらかです。
●fly sein(フライ・ザイン)> かっこいい〜!
昨年の若者言葉・オブ・ザ・イヤー、第一位だったこの言葉。
一時期近所の学校帰りの子どもたちが二言目にはフライ、フライと言っていて、なんだろ?と思っていたのですが。「カッケー!」くらいの意味かな?見た目にかっこいい、決めてる〜!という時に使うよう。英語のスラング「on fleek」にあたるそう。でも最近聞かないですね。消えるのもあっという間です。
●isso(イッソー)> そうなんだ
Es ist so – Ist so – isso と変化した略語。上の、fly sein と一位の座を争った昨年の若者言葉ですが、実はオンライン投票ではこちらの方が人気が高く、圧倒的にisso(イッソー)の方が使われている気がします。
●naise(ナイス)> ナイス!
fly だけでなく、英語をドイツ語に使うのは、若者に限らずここ数年の傾向。
checken = チェックする、chillen = チルる、googeln = ググる、liken = いいね!する、relaxen = リラックスする、adden = SNSで友達に加える……などなど、これらはもう年代を超えていろんな人が使っています。
naiseは、英語のナイスNiceをドイツ語流に変えた発展系らしいです。
●Hayvan(ハイヴァン)> 動物
興味深かったのが、ドイツの若者言葉の中にトルコ語由来のものがたくさん入ってきていること。
トルコ語で「動物」を意味するこの単語は、文脈の中で良い意味にも悪い意味にもなります。例えば、筋肉ムキムキの人だったり、信頼できる友達、だったり。その意味は様々。
トルコ語で「人生」というHayat(ハヤット)も「Du bist hayat」君は僕の人生だ、好きだよ!なんて風に使われるそうです。2013年の若者言葉大賞に選ばれているBaboも、トルコ系の言葉で「ボス」だとか。
ドイツでは5人に1人が移民の背景を持っています。西ドイツに限定すれば、その数は4人に1人。
1960年代以降、労働力としてやって来た、特にトルコ系の人たちはそのコミュニティの大きさもあってドイツ語学習不足、しいてはドイツ語が必要な職につけないという問題を抱えています。
しかし逆にこうやって、トルコの言葉が新しいドイツ語になるというのは、トルコとドイツの関係性の新しい段階を示しているようで、いいなあと思いました。言葉が受け入れられるということは、その文化自体も受け入れられているということなのでしょうから。ちなみに、日本語のカワイイ〜!Kawai も若い世代にはわりとふつうに通じます。
●merkeln(メルケルン)> メルケルする、Lindern(リンドナーン)> リンドナーする
最後に、若者言葉ではないですが、今年9月の総選挙後、連立協議問題で揺れ続けるドイツらしい「新語」をひとつご紹介します。
merkeln >メルケルする は、2015年の若者言葉ランキングに入っていた言葉で、当時のメルケルのようにはっきりした決断を下さない、ことを表していました。
Lindern(リンドナーン)は、11月19日、FDPのクリスチャン・リンドナー党首が、長らく進めてきたキリスト教民主党と、緑の党との連立協議との離脱を発表。いわゆる「ドタキャン」的な意味に使う……らしいです。
やはり言葉は世情を映す鏡ですね。同じドイツ語圏でもオーストリアやスイスの流行語や若者言葉はドイツとちょっと違っていて興味深いです。ご興味ある方は、ぜひググってみてください〜。
執筆者:河内秀子
東京都出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』『ミセス』、『Young Germany』『Think the Earth』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。
Twitterで『#一日一独』ドイツの風景をほぼ毎日アップしています。いまの興味は『#何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題』。美味しくてフォークを刺してあるケーキを探し歩く毎日です。HPもご覧ください。