ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の最西端に位置し、オランダ国境寄りにあるニーダーライン。その美しく平坦なライン川下流地域には、誰もがうらやむグルメ、歴史的なエクスカーション、世界をリードする革新的企業が集まりエネルギーに満ち溢れている。
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デュッセルドルフにも近いこの地域に多くの日本企業が拠点を構えているのは決して偶然ではない。クレーフェルトとメンヒェングラートバッハを中心に約200万人が住む、豊かな生活を彩る人気居住地域のニーダーラインを紹介しよう。

日本企業の強い味方、親日派の市長が後ろ盾
Schloss Neersen; 出典: Stadt Willich

デュッセルドルフ、メンヒェングラートバッハ、クレーフェルトの三都市につながる、交通の便に恵まれた人口約5万人の街、ヴィリッヒ(Willich)。市内産業地区のミュンヒハイデ(Münchheide)には、日立工機、セイコー、住友電気工業、計量機器メーカーの大和製衡、東洋ゴム工業をはじめとする30社の日本企業が拠点を構えている。

それもそのはず。ヴィリッヒには大の日本ファンであるヨーゼフ・ハイエス市長(Josef Heyes)と、デュッセルドルフ日本クラブの広報部長を長年務める稲留康夫氏がおり、日本人をあたたかく迎え入れてくれるのだ。

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日独相互理解の促進に大きな貢献を果たしてきた稲留康夫氏は2006年、ヴィリッヒ市から名誉市民賞を、2015年には日本外務省から外務大臣表彰を授与されている。ヨーゼフ・ハイエス市長も日独間の経済関係を強化し、盤石なものとしたことが高く評価され、2011年、日本政府から外国人叙勲を受けている。ヴィリッヒに拠点を置けば心強いことこの上なしだ。

世界最古のアルトビール醸造所
出典: © Brauerei Bolten

コルシェンブロイヒ市(Korschenbroich)のクラウスホーフ(Kraushof)にあるボルテン醸造所(Privatbrauerei Bolten)は世界最古のアルトビール醸造所。

設立はなんと1266年で、ミュレンドンク領主からビール醸造権を授与され、ビール作りが始まった。以来750年以上にわたってアルトビールを醸造している。

出典: © Brauerei Bolten

4種類のホップ、良質麦芽のスペシャルブレンド、自家製酵母が織りなす芳醇な味と香りは唯一無二の味わいだ。1991年から生産されている酵母無濾過のウア・アルト(Uralt)も人気が高い。ボルテン醸造所のビールはDLG(ドイツ農業協会)金賞をはじめ、多数の賞を受賞している。

女性大富豪が率いる世界有数の化学メーカー
出典: © Altana AG

ヴェーゼル(Wesel)に拠点を置くアルタナ社(Altana AG)は従業員数6000人、年間20億ユーロの売上を誇る特殊化学市場のリーディングカンパニーだ。そのアルタナ社を所有するのがドイツ一の女性大富豪、ズザンネ・クラッテン(Susanne Klatten)。クラッテン女史はアルタナ社のみならず、BMWの大株主でもあり、双方の監査役員会のメンバーでもある。

出典: © Altana AG

塗料、コーティング、プラスチック分野で使われている添加剤を世界市場で牽引するのもアルタナ社のグループ事業部門の一つ、BYK社だ。1980年代からBYK社の日本支社、ビックケミー・ジャパン株式会社が日本市場を担当している。

古代都市にタイムスリップできる街
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人口約2万2000人の小さな街、クサンテン(Xanten)にはドイツ最大の野外考古学博物館がある。ここはローマ初代皇帝アウグストゥスがゲルマン人に対抗するために作った、ローマ帝国の軍営都市コロニア・ウルピア・トラヤーナ(Colonia Ulpia Traiana)があった場所で、その多くが発掘され、見事に復元されている。

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古代ローマ帝国初期の戦闘装備や生活用具、野外円形劇場の復元遺跡など、当時の様子をしのばせる古代都市を一目見ようと、考古学ファンを中心に年間60万人がクサンテンを訪れている。

欧州卓球を支える日本品質をクレーフェルトから
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タマス・バタフライ・ヨーロッパ(Tamasu Butterfly Europa GmbH)はブランド名のバタフライ(BUTTERFLY)で知られる世界トップ卓球用品総合メーカー、株式会社タマスの欧州現地法人。

デュイスブルク西郊の都市、メールス(Moers)に置かれていたタマス欧州拠点は事業拡大のため、近年、ドイツ繊維産業の中心都市クレーフェルト(Krefeld)へ移転。タマス・バタフライ・ヨーロッパが独自に開発・商品化している卓球用品や機能性テキスタイルは世界的にも人気だ。

出典: © Butterfly Mag

卓球ランキング世界一の経歴を持つドイツ人卓球選手、ティモ・ボル(Timo Boll)はタマスのマーケティングを支える大切な契約選手の一人。彼が使用したモデルは「ティモボルALC」と名付けられ、広く卓球選手に愛用されている。

世界一のコーヒー焙煎機はプロバット
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日本でも人気の高い、ドイツ製焙煎機プロバット(PROBAT)。なんと世界で消費されているコーヒーの70%がプロバットで焙煎されている。

プロバットという名前がメーカー名のように扱われることも多いが、プロバットはあくまでもブランド名。製造メーカーは1868年にエメリッヒ(Emmerich)で設立された老舗焙煎機メーカー、ギンボルン・マシーネンファブリック社(Gimborn Maschinenfabrik GmbH)だ。

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焙煎機プロバットは、コーヒー豆のアロマ醸成、維持、酸化防止、割れ防止を実現し、コーヒー豆を卓越した焙煎レベルで仕上げる。最も大きいプロバット焙煎機はドラム式で、なんと1時間に6トンのコーヒー豆を焙煎できるという。

北西ヨーロッパ最大の巡礼地
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ケーヴェラー(Kevelaer)は、人口2万8000人、わずか100㎢ほどの、オランダ国境沿いの小さな街だ。ここに毎年80万人以上のカトリック教徒が巡礼に訪れる。

その歴史は375年前に遡る。時は1642年、三十年戦争末期。ケーヴェラーに向かっていた一人の商人が、夢で聖母マリアから「ケーヴェラーに礼拝堂を建てよ」というお告げを聞いたという。お告げに従って、商人は妻とともに「恵みの礼拝堂」(Gnadenkapelle)を建立。

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礼拝堂にはハガキの大きさもない小さな聖画像が掲げられたのだが、その聖画像を崇めた信者たちの身には次々と奇跡が起こった。たちまち人々はケーヴェラーに群れをなして訪れるようになり、今日に至るまでその巡礼は続いている。ケーヴェラーの街中には、木彫りや銅製のキリスト、聖母マリア、天使の聖像や聖画など、宗教工芸品店が数多く立ち並んでいる。

自動車用繊維を手がけるサプライヤー
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その高付加価値な品質で自動車産業を支えているのがメンヒェングラードバッハ(Mönchengladbach)にある産業用繊維メーカーのアウンデ社(AUNDE Gruppe)。戦前、次々に設立されたドイツ車メーカーの需要に応えるべく、すでに1899年に創業していた繊維会社のアウンデ社は、自動車のシートやシート部品、革製の車用品に製造を特化。

今では国際的な自動車産業向けシステムサプライヤーに発展し、世界27カ国100カ所に工場を擁している。近年、アウンデ社は自動車産業のみならず、航空・宇宙産業向けの先端的な産業用繊維も手がけている。

ニーダーラインの砂で育つ香り豊かなシュパーゲル
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ドイツ人が愛してやまない白アスパラガス、シュパーゲル(Spargel)。ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州が、ニーダーザクセン州、バイエルン州に次ぐドイツ国内第3位の栽培面積を誇るシュパーゲル産地であることは意外と知られていない。

その代表産地が温暖で十分な雨量と良質の砂地に恵まれた小さな街、バルベック(Walbeck)だ。すでに1929年には55軒の農家によってバルベックシュパーゲル農民協同組合が設立され、現在の総作付面積1600ヘクタールに至っている。

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バルベックには採りたての新鮮なシュパーゲル料理が味わえるレストランが数多くあり、4月から6月の収穫時期になると、シュパーゲル愛食家がこぞって押しかける。

収穫したてのシュパーゲルを買い求められるばかりでなく、畑での収穫や選別、販売作業も見学させてくれる農家もある。古代ローマ時代からこよなく愛されている「貴婦人の指」、シュパーゲル。初夏にニーダーラインを訪れる際には、ぜひバルベックまで足をのばしてシュパーゲルを堪能してみてはいかがだろうか。