ちょっと細かい話で恐縮なのですが、今回は常々気になっていた「ドイツのエスカレーター事情」について書きたいと思います。
まずは、ドイツに暮らしはじめたばかりのころ、思わず「すごーい!」と声が出たのが、「双方向に動くエスカレーター」を体験したとき。……エスカレーターって双方向に動くものじゃないの? と思った方もいるかもしれません。が、1機のエスカレーターが上へ向かって動いたり、今度は下へ向かって動いたりと切り替えをするのを見たことがある方はそれほど多くないのではないでしょうか(少なくとも、私は日本ではもちろん、見かけたのはここドイツが初めてでした)。
もう少し詳しく説明すると(って、本当に細かい話ですね。すみません)、例えば上から下へ動いているエスカレーターがあったとします。しばらく誰も使わないでいると、自動的にストップ。とここまではよくありますが、ここでもし、下から誰かがエスカレーターに乗ろうとすると、センサーが反応し、今度は下から上に動き出すわけです。
乗って良いか悪いかの判断は、乗り口で「進め」の矢印が点灯していれば乗り込みが可能で、赤地に白い一本線の「進入禁止」マークが点灯していれば、逆方向からの使用のために乗れないことを表しています。
日本の駅などで、上から下へ流れるだけのエスカレーターの前で舌打ちをするような気持ちになったことのある私としては(上に行くときに使いたいのに!)、「なんて便利!」と思わず感動してしまったのです。
(もっとも、東京のような人口密度の高い場所では混乱必至で実現不可能でしょうけれど)
一方のマイナスポイントとしては、信じられない頻度で「故障中のエスカレーター」に出くわすこと。ドイツ人たちは眉ひとつ動かさず、止まったままのエスカレーターを颯爽と上り下りしていきますが、こちらは「また!?」とイライラ。
地下鉄から地上に出たいときなどに、2機、3機と乗り継がなくてはいけないエスカレーターがすべて停まっていたりすることもあり、それはもう息が切れる。
そのほかには、ドイツのエスカレーターはやたらにスピードが速い、という特徴も。油断していると「おっと」と後ろへのけぞってしまうような速度のものもあり、一時帰国の際に日本のエスカレーターに乗って「遅!」と驚くこともしばしば。
「足元にお気をつけください」なんて親切なアナウンスも流れ、段差も小さく形状も丸みがあってなんだか全体的に優しい感じ。ドイツの無機質でロボットチックなエスカレーター(おまけになんだかいつもほこりっぽい)とはだいぶ違います。
ちなみに、急ぐ人のために左側を空けておくのは日本の“大阪式”と同じ(ドイツでは全国的に左側を空けておくようです。夫に言わせると追い越し車線のイメージとのことですが、本当でしょうか)。ドイツに来たときにはぼんやり左側に立たないようにお気をつけください。
あと、もうひとつ注意事項が。冒頭の「双方向に動くエスカレーター」を使うとき、行く先が死角になって見えないことがあります。すると、その先でいつまでたってもエスカレーターを使えないで、杖を振り上げて怒っているおばあちゃんがいたりします。そのときは「ごめんなさい」とともに、後ろに続く人がいれば「待っている方がいますよ」と声をかけると親切ですね。
以上、ドイツのちょっと細かい街角事情でした。
溝口シュテルツ真帆
編集者、エッセイスト。2014年よりミュンヘン在住。自著に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。アンソロジー『うっとり、チョコレート』(河出書房新社)が好評発売中。『Huffington Post』『YOUNG GERMANY』にサンティアゴ巡礼記連載中。日独間の翻訳出版エージェント業にも携わる。twitterアカウントはこちら→@MMizoguchiStelz