I mog di, Isch lib dsch, Ick liebe dir… ドイツの方言対決!

ザクセン訛りはアホっぽい?訛り以外は完璧、シュヴァーベン人は嫌われ者?の謎。方言を通じて見えてきた、ドイツ各地の対抗意識とは?

ふわふわのジャム入り揚げパン。カーニバルが開催される今の時期に、ドイツ中のパン屋で見かけるこのお菓子。名前を知っていますか?

出典: © 河内秀子

なぜか「Berliner(ベルリン人)」と呼ばれることが多いのですが、ベルリンでは「Pfannkuchen(パンケーキ)」。ミュンヘンやニュルンベルクのある南部バイエルン州では「Krapfen」。フランクフルト周辺では「Kreppel」「Kräppel」。

こちらは丸パンBrötchenの呼び名を表した分布図です。

出典: © atlas-alltagssprache.de

大切な主食である丸パンも、各地でこんなに呼び名が異なります。ドイツは連邦制だからか、統一が遅いからか、州によって祝日も法律も違いますし、上記のようにモノの名前すら画一的ではないことがあります。

出典: flickr/Christian Benseler CC BY 2.0

そしてまた、方言も豊かで多様。バイエルンの田舎町に取材に行き、ビアガーデンでStammtisch(常連席)に集うおじいさんと話そうとしたら、相手が何を言っているのか全くわからず、冷や汗をかいたことがあります。

ビールを勧められ仕事中だからと断ったところ……
「Bei uns hod no nia ned koana koa Bia ned drunga!」
えっ?!
標準ドイツ語で書きますと、
「Bei uns hat noch nie nicht keiner kein Bier nicht getrunken!」
否定語が多すぎて混乱しますが、つまり「バイエルンでビール飲まないなんて、ありえん!」ってことです(笑)

出典: © 河内秀子

さあ飲め!
1リットルジョッキ「Maßkrug」以外は認めん!
ひえー!

独PLAYBOY誌の調べによると「ドイツで最もセクシーな方言」第一位に輝いたのはバイエルン訛り。次いでベルリン訛り。誰が話しているかによると思うのは私だけでしょうか……。何にせよ、ドイツの方言の中で、もっとも愛されているのはBoarisch、バイエルン訛りらしい。

では、あまり好かれていないのは?

出典: © 河内秀子

これは、ベルリンの壁に描かれている絵。旧東ドイツ、DDRの国境警備隊員が、踏切をぶっちぎって西側に行こうとするトラバントに「Nu das gääd aber nüsch」と呟いています。ザクセン訛りで、「Nein, das geht aber nicht」(いや、それはダメだよ)。この人物がぼんやり抜けた感じに描かれているのは、偶然ではありません。

出典: © 河内秀子

Äggsbärde  標準ドイツ語ではExperte エキスパート
älidär & äxzälländ エリート&エクセレント

母音が間延びし、最初の音が濁るザクセン訛りは「とろく聞こえる」と、揶揄されることが多い方言。お笑い番組でもボケ役はザクセン訛りだったりします。

DDR時代にはザクセン訛りで話すことが特別な意味を持っていたとも聞きます。初代国家評議会議長として国のトップにいたヴァルター・ウルブリヒトはライプツィヒ出身で、ザクセン訛りが強いことで有名でした。映像は有名な演説「だれも壁を作ろうなんて思ってない」。ベルリンの壁が作られる2か月ほど前に行われたもの。うっかり口が滑ってしまったんですね。
最後の東独国家元首エーリッヒ・ホーネッカーも、ザクセン出身でないにも関わらず、訛っています。

出典: © 河内秀子

そしてザクセン訛りほどではありませんが、憎まれがちなのが、シュトゥットガルトを中心とする南西部シュヴァーベン地方。ドイツを支える中小企業のトップが集まるこの土地出身の人たちは「勤勉」「掃除好き」「時間厳守」。日本人が考えるTHEドイツ人!
まじめでよく働くので、ベルリンでも企業やお店のオーナーなどはこの地方の人が多いです。なんでわかるのかって?訛ってるんです!どんなに標準語を話しているつもりでも、隠しきれないシュヴァーベン訛り。
(写真は、シュヴァーベン醸造所のビールの広告。ächdr gnallr 標準語化すれば → ein echter Knaller こいつは本当にすごいぜ。)

それを逆手にとって、彼らが考え出したスローガンがコレです!
Wir können alles. Außer Hochdeutsch. (標準ドイツ語以外は、なんでもできます。)

ここの訛りは激しく、標準ドイツ語と異なり、隠したつもりでも語尾などからバレることが多いため、逆に隠してもしょうがないと開き直ったのでしょう。

一例としまして、私の体験をあげますと……相方の実家に行ったときの、義母の第一声 「Hoggad Se no!」一単語もわからない。。。
ドイツ語まだまだわかってなかった、と打ちのめされました。(しかも本人は標準ドイツ語を話しているつもり)ちなみに、Setzen Sie sich! (座って!) でした。

その違いを、シュヴァーベン語吹き替えのスターウォーズ(マーケティング会議になってます)でお楽しみ下さい。(これはまだかなりわかりやすいです。)

さて、ベルリンには約30万人のシュヴァーベン人が住んでいるそうです。もちろん全員が成功者ではありませんが、目立つんでしょうか。ベルリン人からしたら、それが癇に障ることが多いようで、ベルリン市内では10年ほど前から、シュヴァーベン人が多いとされるプレンツラウアーベルク地区に「シュトゥットガルトへ帰れ」「シュペッツェレよりカレーソーセージ」と張り紙や落書きされたりと揉め事が。

昨年末は、なんとベルリン公共交通がバスに „Liebe Schwaben, wir bringen Euch gerne zum Flughafen“ 「親愛なるシュヴァーベン人、あなたたちを空港に運びます」と張り出し、大騒ぎに。

ベルリン人はなぜ、シュヴァーベン人が嫌いなのか? 訛りを耳にすると怒り出す。ベルリン発の映画のワンシーンをいつも思い出します。

ベルリン訛りについては、また改めて!
乞うご期待!

執筆者:河内秀子
東京都出身。2000年からベルリン在住。ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』『ミセス』、『Young Germany』『Think the Earth』などでもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いています。
Twitterで『#一日一独』ドイツの風景をほぼ毎日アップしています。いまの興味は『#何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題』。美味しくてフォークを刺してあるケーキを探し歩く毎日です。HPもご覧ください。