ベルギッシェ・ランド(Bergische Land)が位置するのは、ドイツ産業発祥の地でもあるノルトライン=ヴェストファーレン (NRW) 州中央部。ツーリズムや食文化の面から見ても興味深いこの地域の魅力をたっぷりお届けしよう。
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ベルクといっても、山間部ではなく……?

「ベルギッシェ・ランド」は、まるで山間部にあるかのような地域名だ(Bergはドイツ語で山の意味)。しかし、この「ベルギッシェ」は山とは関係なく、かつての伯爵で、後に公爵となった「ベルク」という一族の名に由来するものだ。

ベルク家がその力を誇ったのは12世紀以降のことで、ヴッパー川沿いに建つベルク城にその本拠地を置いた。壮麗なベルク城は一見の価値ありだ。

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刃物の街・ゾーリンゲン

刃物の生産で有名な街ゾーリンゲン(Solingen)があるのも、ここベルギッシェ・ランド。

© LVR-Industriemuseum c/o Miriam Schmalen 2014
出典: © LVR-Industriemuseum c/o Miriam Schmalen 2014

日本人にも人気が高いブランド「ツヴィリング(Zwilling)」も1731年からゾーリンゲンに本社を構えている。創始者はペーター・ヘンケルス(Peter Henckels)という鍛冶職人。ツヴィリングのナイフ類は一般のキッチンで愛用されているのはもちろん、プロフェッショナルからの信頼も厚い。

出典: zwilling.com
コーヒータイムは“Drum und Dran”とともに

この地域でよく耳にする表現に”drum und dran”がある。「すべてひっくるめて」とか「一切合切込みで」という意味だが、日常会話だけでなく、喫茶店のメニューの中にも”Kaffeetrinken mit allem Drum und Dran”という、この地域ならではのメニューを発見することができる。

出典: © dasbergische.de

つまり、コーヒーにぴったりなものすべてをコーヒーと一緒にいただけるなんとも贅沢なメニューだ。“Drum und Dran”として、レーズン入りの白パン、シナモンシュガーミルクライス、黒パン、ワッフル、ラスク、プレッツェル、パウンドケーキ、イーストドーナツ、クグロフ、そして、この地方ならではのサトウダイコンシロップなどが提供される。要するに、ベルギッシェ・ランドなら、目移りしそうなほど充実したコーヒータイムが過ごせるということ!

出典: © gerhardkocht.blogspot.jp
キッチンの秘密兵器が生まれる場所

家電メーカー「フォアべルク(Vorwerk)」の「サーモミックス(Thermomix)」は、温める・茹でる・かき混ぜる・ピューレ状にするなどが1台でできるすぐれもの。ドイツでは大変な人気で、毎年100万台以上が販売されている。現在日本では、フォアべルク社の掃除機を販売しているが、サーモミックスも早く購入できるように期待したいところだ。

Thermomix TM5; 出典: © Vorwerk
川を渡る“宙づりの鉄道”がある

ヴッパータール(Wuppertal)の「シュヴェーベバーン(Schwebebahn)」は、レールに宙づりにされた状態で走行する鉄道。100年以上前からヴッパー川や街の“空中”を走っているというから驚く。支柱は帝国時代のものだが、車輛は2015年に一新。鉄道ファンならずとも一度は体験してみたい乗り物だ。

出典: flickr/Dein Nordrhein-Westfalen
世界で最も新しい暖房設備

「バイラント(Vaillant)」は、ヨーロッパ最大の家庭用暖房メーカー。創立142年のこの企業は、製品が環境保護に配慮されていることでも有名。日本のホンダとともに、ヨーロッパの戸建て住宅向けに革新的な小型コージェネレーションシステムのマイクロガスヒーターを開発したことでも注目を集めている。

出典: © Vaillant
ピナ・バウシュが生涯を過ごした土地

20世紀で最も有名な振付師であるピナ・バウシュ(Pina Bausch)は、ゾーリンゲンで生まれ、その生涯を遂げるまで、ヴッパータールで活動を続けた。彼女はダンスと舞台劇を融合させ、世界のダンスシーンに多大な影響を与えた。

出典: flickr/Duisburger Philharmoniker CC BY-NC 2.0
世界で最も重要な化学製品の発明

ベルギッシェ・ランド内のエルバーフェルト(Elberfeld)では、1896年にヘロインが、1897年にアスピリンが発明され、1904年には、化学工業及び製薬会社の「バイエル(Bayer)」が設立された。現在バイエル社はレーバークーゼン(Leverkusen)に本社を構え、ヴッパータールには研究センターが置かれている。

出典: © Bayer Wuppertal
美しい木組みの家が建ち並ぶ

石畳の路地、ロマンティックな広場、黒い屋根や緑のよろい戸が美しい木組みの家々……。中世にハンザ同盟に加盟し、機織りで栄えたレムシャイト(Remscheid)の旧市街には、そんな心和む風景が広がっている。家々は文化財として保護され、この景色は中世の時代から変わっていない。

出典: © Stadt Wuppertal
テクノロジー分野でも存在感

「ティーレンハウス・テクノロジーズ(Thielenhaus Technologies)」は、「マイクロフィニッシュ」のための工作機械を製造している老舗企業。マイクロフィニッシュとは、表面を1万分の1mmまでなめらかに整える技術のこと。ティーレンハウス・テクノロジーズは産業分野はもちろん、人口股関節といった、医療用具の開発も手がけている。

出典: © Thielenhaus
小さな街に建つ、美しい大聖堂

ベルギッシャー大聖堂とも呼ばれるアルテンベルク大聖堂(Altenberger Dom)は、人口1万5000人ほどの小都市オーデンタール(Odenthal)に建つ。美しいゴシック建築様式の教会で、その歴史は約900年。アルペン以北の教会の中では、最大サイズの窓を持つことでも知られている。年間100以上の宗教音楽のコンサートが開かれる文化の継承地でもある。

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あのレントゲンとエンゲルスの出身地

ベルギッシェ・ランド出身の著名人として記憶しておきたいのは、レムシャイトで生まれ、X線を発見したヴィルヘルム・コンラッド・レントゲン(Wilhelm Conrad Röntgen)がまずは挙げられる。

レムシャイトにあるヴィルヘルム・レントゲンの生家; 出典: Wikipedia CC BY SA 3.0

そして、かの有名な社会思想家のフリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels)もベルギッシェ・ランドのヴッパータール出身である。紡績会社を営む父親の仕事を手伝うために渡ったイギリスで社会主義者となったエンゲルスは、カール・マルクス (Karl Marx) を資金面・精神面でサポートし、マルクスとともに労働運動、共産主義運動の発展を率いた稀有な人物だ。

フリードリヒ・エンゲルス (右), カール・マルクス; 出典: Wikipedia CC BY SA 3.0
ドイツ最高峰のレストランがある

「ヴァンドーム(Vendôme)」は、五ツ星ホテル「アルトホフ・グランドホテル・シュロス・ベンスベルク(Althoff Grandhotel Schloss Bensberg)」内にあるレストラン。三ツ星シェフのヨアヒム・ヴィスラー(Joachim Wissler)が最高の料理とサービスでゲストをもてなし、「世界のベストレストラン50」にも選出されている。

© Gourmetrestaurante Vendome
出典: © Gourmetrestaurant Vendome