寒い冬の夜に悪い子を戒める悪魔クランプスとペルヒテン。その完成度は大人も黙るレベルだった

大晦日に「泣く子はいねがー」とやってくる鬼をみて、泣き出す子供は毎年あとを立たない。日本の東北地方に伝わる「なまはげ」は、鬼の姿をした山の神の使者が「悪い子はいねがー」「怠け者はいねがー」と、村人の家々を戒めて周る儀式。吉と子孫繁栄をもたらすとされている。秋田県男鹿市の「男鹿のナマハゲ」は、国の重要無形民俗文化財だ。

これとよく似た風習が、遠く離れたヨーロッパの雪深いアルプス地方でも脈々と受け継がれていた。

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出典: Archiv Tourismusregion Klagenfurt/pixelpoint/Handler

あちらの「なまはげ」は、その名を「クランプス(Krampus)」と「ペルヒテン(Perchten)」という。クランプスとは「生きていない」「干からびた」「しぼんだ」「枯れた」といった意味だとか。ペルヒテンには「毛むくじゃら」「髭面」という意味と同時に「美しい」「素晴らしい」という意味があり、恐ろしいペルヒテンと美しいペルヒテンがいる。

クランプスは、聖ニコラウスの付添人で毛むくじゃらの乱暴者。良い子にプレゼントを配る聖ニコラウスに対して、悪い子を戒める存在だ。彼らは通常、子供を怖がらせながら群れで歩く。伝統的の衣装とお面には、かなりの手間暇とコストがかかる。クランプスの時期は12月6日とその前数日だ。

彼らはそもそも、ケルトの伝説の生き物で、突然やって来る冬をなんとか追い払おうとする人間たちを手伝う役割を持っている。クランプスの伝統的な装束は、木のお面と動物のツノだけ。濃い色か黒の羊や山羊の毛皮を身のまとい、カウベルのついたベルトをし、鞭と馬や牛の尻尾を持っている。クランプスの鞭は幸運と子孫繁栄をもたらすものだ。

オーストリア人とクランプスについて話すと、子供の頃の恐ろしい思い出を聞くこととなる。クランプスに出会った子供はその後、夢に見たり、その恐ろしい顔が一生頭から離れなかったりする。

しかし最近では、映画やテレビで色々な怪物を見慣れているせいか、全く怖がる様子を見せない子もいるとか。

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ペルヒテン(Perchten)は、伝説の生物でオーストリアのアルプス地方とバイエルン州に伝わっている。ペルヒテンはひとりでもグループでも現れる。伝統的には、ペルヒテンが活動するのはラウナハト(Rauhnacht)と呼ばれるクリスマス前後の夜だ。ラウナハトは地域によって違うのだが、重要な夜は12月21日、24日、31日の夜と、年が明けて1月5日の夜である。

ペルヒテンは、人間の力の及ばない自然の驚異を体現している。いまわしい魂を捕らえて、ふさわしい罰に導くのが役目。罰を与えることがペルヒテンの使命なのである。

ペルヒテンのお面には、できるだけ多くの「いまわしい魂」を一度に串刺しにして、罰を与えることができるよう、たくさんのツノが生えている。毛皮はクランプスよりも薄い色だが白くはない。ペルヒテンが常に手放さないのは、鈴と、金属製の槍のような飾りだ。先端には馬や牛の尻尾がついている。

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アルプス地方の、最大で最も美しいクランプス行列のひとつが2015年11月28日にクラーゲンフルト・アム・ヴェルターゼー(Klagenfurt am Wörthersee)で開催された。1.5kmの道を行進して行く悪魔たちを一目見ようと、約50,000人の人々が訪れた。

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