エメンタールやアッペンツェラーといったスイスチーズをシンボリックにする大きなボコボコ穴。欧米の子供達は、いつの時代でも、それは腹ペコのネズミたちによってつくられたものだと信じてきた。

だって、チーズは体を強く元気にするからね。そう子供達は大人たちから教わって、欧米の子供達はたくさんチーズを食べて育つ。チーズは豊かな栄養源。チーズを食べたネズミは小さくても強いのさ。こういった共通概念が例えばこんなコマーシャルまでつくってしまう。

(捕獲器に使われているネズミは本物ではないそうです。ご心配なく)

冗談はさておき。実際にどうして穴が開くのか - 大人たちは子供達に空言を話す傍ら、100年近くもその謎を解明するために研究してきた。1917年、アメリカの科学者がチーズの穴は、牛乳に含まれている乳酸菌が出す二酸化炭素によるものだと結論付けた論文を発表したが、その論だけでは説明できないものがあった。それは、なぜ穴が不規則に開いているのか、そしてチーズの外縁側に穴ができないのはなぜか。

Cheese with holes
出典: flickr/arbyreed

そして、ついにスイス連邦政府の農業研究機関、アグロスコープ(Agroscope) の専門家チームが長年の謎を突き止めた。チーズの穴は、牛乳に含まれる微量の干し草が原因で生まれていたのだ。

Heupartikel unter Mikroskop
出典: Agroscope

発酵途中に発生する二酸化炭素が、干し草片の中に含まれている空気と結合し、それが「核」のようになり、そこを中心に乳酸菌が増殖してガス溜まりを作りやすくなるというのだ。そのガス溜まりが後の空洞になるというわけだ。干し草片がどこにあるかによって、チーズの穴がどこにできるかも決まる。外縁側の二酸化炭素は、干し草片と結合する前に外に逃げてしまうから外縁側に穴が生まれることはなく、穴はすべて真ん中を中心にできる。

Computertomografie Cheese
出典: Agroscope
出典: Agroscope

スイスチーズの穴の数や大きさがここ10〜15年間なぜ激減しているかが、この研究成果で説明された。近年の製造方法はあまりに衛生的で干し草片が混入する余地がなかったのである。原因がはっきりした今、これからは干し草片や同じような働きをするものを加えるようになるだろう。でも衛生面の心配をする必要はない。1トンの牛乳に対し、必要な干し草片は5〜10ミリグラム。たったそれだけの干し草の量で大きな穴が生まれるのだ。いずれにせよ、これからも大人たちは子供にチーズの穴はねずみの仕業だよと言い続けることができそうだ。